Q:不動産の賃貸借契約において,期間内に解約があった場合,違約金条項に基づいて違約金は請求できるでしょうか。

 不動産賃貸借契約において、契約期間途中で賃借人からの解約を禁止したうえで、契約期間途中で賃借人から解約又は解除があった場合に、賃借人が賃貸人に違約金を支払わなければならないとする特約自体は有効です。
もっとも、契約期間が長期間であり、中途解約日から契約期間満了日までの期間が長期にわたる場合は、いくら違約金支払いの特約が存在しても、公序良俗により特約の一部が無効と判断され、全額支払ってもらうことができない場合があります。

 このような違約金条項の有効性について、判断している裁判例(東京地判平8.8.22判タ933・155)があります。結論的には、賃貸借契約を中途解約した場合の違約金条項が賃借人に著しく不利であるとして、公序良俗違反を理由に一部無効と判断しています。
 事例としては、賃貸人と賃借人との間で、4年間の建物賃貸借契約が締結され、同契約には、「賃借人は期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う」旨の条項がありました。賃借人が建物を賃借して約10か月が経過した後、賃借人の経済的困窮を理由として契約は解約されました。そこで、賃貸人が賃借人に対して、違約金として約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の支払いを請求したというものです。

 当該事実をもとに、裁判所は、解約に至った原因が賃借人にあり、賃借人に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても、約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、違約金の約定は、実際に建物を明け渡した日の翌日から1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、それ以外の部分は公序良俗に反して無効であると判断しています。
 なお、当該判断をするにあたって、賃貸人が次の賃借人を確保するまでに要した時間は数か月であったという事実も考慮されています。

 当該裁判例から、違約金特約が一部無効と判断される理由は以下の2点であると考えられます。
 一つは、違約金の趣旨にあります。上記特約における違約金とは、中途解約日から契約期間満了日までの賃料及び共益費相当額を確保するところにあります。このことから、仮に賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には、事実上賃料の二重取りに近い結果になり、不当であると判断されることになります。
 二つ目の理由は、違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えることになりかねないということです。

 したがって、中途解約から契約期間満了までの期間が短く、違約金の額が過大でない場合は、違約金特約が有効と判断される可能性があります。また、定期建物賃貸借契約の場合や、賃借人の希望に応じて賃貸人が建物を建築して賃貸し、かつその建物が汎用性に乏しい場合には、中途解約後の契約期間満了日までの賃料全額を違約金として請求することができると考えられます。