Q:建物賃貸借契約の期間について,賃貸人側,賃借人側で気をつけることはありますか。

 賃貸借契約において、法律上、期間の定めは必須の要件ではないものの、貸主や借主ともに関心があるところだと思います。今回は、比較的多い建物の賃貸借について、貸主側と借主側の両側面から気をつけていただきたい箇所をざっくり説明します。

1 貸主側が気をつけること

 賃貸借期間が設定されている場合、何ら理由なく賃貸人から一方的に賃貸借契約の解約はできません。賃貸借契約に賃貸人側の中途解約権の留保(民法618条)が定められてあった場合でも同様です(借地借家法27条により修正される。)。また、期間が設定されていても、期間の満了の1年前から6月までの間に賃借人に対して更新をしない旨の通知等をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされます(同法26条1項本文。同項ただし書により、期間だけは定めがないものになります。)。それならば更新しない通知をすれば十分かといえばそうではなく、期間満了後、建物の賃借人が使用を継続する場合において、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、従前の契約と同一条件(期間除く。)で更新したものとみなされてしまいます(同法26条2項。)。

 更新拒絶の通知をして異議も述べれば賃貸借契約が解約できるのかといえばそうではありません。いろいろな事情を考慮したうえで正当事由があると認められる場合でなければ解約できません(同法28条)。この正当事由の判断につき、いろいろな裁判例がありますが、明確な基準があるというわけではありません。正当事由を補充する要素として立退料の支払がありますが、これだけで正当事由の根拠になるわけではないですし、立ち退きの代わりに1000万円を越える立退料の支払いを命じた裁判例も多数存在します。

 一方、期間が定められていない場合、解約の申入れの日から6月を経過することによって賃貸借契約が終了します(同法27条1項)。ただ、この解約の申入れにも正当事由が必要とされます(同法28条)。

 賃貸人としては、どうしても決まった期間で賃貸借契約を修了したいと考えることもあると思います。その場合、定期建物賃貸借を締結する必要があります。定期建物賃貸借には、法律上、ある程度細かい要件が定められています(同法38条)。その要件を踏まえて定期賃貸借契約を締結する必要があります。

2 借主側が気を付けること

 個人の居住用として賃貸借契約を締結する場合、借主に中途解約権の留保が特約として定められていることが多いと思います。その結果、借主は、賃貸借契約期間内であっても、退去後無駄な賃料を支払わずに済むことが多くなります。

 中途解約権の留保特約が多いため、借主としてはこれが通常であると錯覚することがよくあります。事業用で借りる場合、その特殊性や投下資本の回収の観点から、賃貸人は、中途解約禁止条項を設けることが多いように思います。中途解約できるものの契約期間満了までの賃料相当額を違約金として定めている場合や、中途解約に関し何ら規定がない場合も同様です。中途解約権の有無を確認せずに借りてしまった場合、例えば解約希望日から契約満了までの残り1年間分の賃料相当額を支払わなければならない可能性が高くなります。

3 まとめ

 建物賃貸借期間についてざっくり説明しました。土地の賃貸借であればまた異なるルールがありますし、上記の正当理由などは一概に決まるものでもありません。
 契約書をチェックして予期に反する内容の契約にすべきですし,契約締結後でも合意解約による解決を模索するということもあります。まずは専門家に相談していただければと思います。