Q:小規模な閉鎖会社や特定有限会社で、社長が死亡し、跡継ぎが相続する場合、どのような対応が必要になるのでしょうか。

A:中小企業においては、取締役社長を務める父が亡くなり、その子が跡を継ぐ、ということがあります。父の財産については相続が発生しますが、取締役社長の地位をそのまま相続することはできません。このような場合にはいかなる手続をとることができるのでしょうか。

 なお、下記の説明は、特例有限会社及び取締役会を設置していない小規模閉鎖会社を念頭に置いたものです。

 中小企業、特に同族会社においては、多くの場合、取締役社長が発行済株式の全部または大部分を保有しています。株式は、取締役社長の死亡によって相続されます。しかしながら、相続人が多数存在する場合には、株式が分散されてしまい、株主総会の決議に影響が出ます。特に、取締役会を設置しない会社については、株主総会の決定権限が大きいため(会社法295条1項)、経営に与える影響も必然的に大きくなります。したがって、取締役社長の保有していた株式については、会社の跡継ぎである相続人がすべて取得するよう、遺産分割を行うことが考えられます。また、株主となった相続人は、株主名簿の名簿書き換えを速やかに行う必要があります。株主名簿の名義書換の請求は、相続人が単独で行うことができます(会社法134条4号、同133条2項・同法施行規則22条1項4号)。特例有限会社の場合は、従前の社員名簿が株主名簿となります(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律8条)。

 取締役社長の個人財産が、会社の事業を行うにあたって使用されていることもあります。例えば、取締役社長の所有する土地上に、会社所有の建物が絶っている場合などです。この場合、取締役社長の死亡によって、土地は相続の対象となるので、会社の跡継ぎでない相続人がこれを取得すれば、土地の明け渡しを求められることも考えられます。したがって、相続財産の中に、会社の事業継続に必要なものがあれば、株式と同様、会社の跡継ぎが取得するよう、遺産分割を行うことが考えられます。

 取締役社長が、会社の債務について連帯保証人となっていることも多くあります。連帯保証債務についても、相続の対象となります。会社の跡継ぎである相続人が株式や財産を取得する以上、連帯保証債務についても同人がこれを一手に引き受けることが想定されます。この場合、債権者の承諾が必要となります。

 また、会社の跡継ぎが取締役社長の地位に就くためには、株主総会において、取締役として選任されなければなりません(会社法329条1項、341条)。
 このように、取締役社長の跡を継ぐためには、遺産分割や選任等の手続を経る必要があります。特に、遺産分割はひとたび紛争となれば、長期化することも考えられます。また、相続である以上、相続税の納付等の問題も出てきます。

 事業承継について、後継者がおられる場合は、遺言などにより準備をすることができますので、相続前の準備をお勧めします。