Q:いわゆるコンプライアンスが重要といわれますが、どのような点が重要なのでしょうか。

(1)コンプライアンスとは

 一般的には、「法令遵守」と呼ばれています。「法令」には、条例や規則等、法令と同レベルの法規範は当然のことながら、いわゆる社会規範(つまり法律にはないが、倫理的な規範、社会内のルールのこと)のうち社会の要請の特に強いものは、法令に準じるものとして扱われます。企業は、法令遵守義務を負うのは当然ですし、その点で、大企業であるか中小企業であるかによって、差異はありません。

 会社法第355条は、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と規定し、取締役の法令遵守義務を定めています。中小企業であること自体を理由として軽減されるものでもありません。

 いわゆるコンプライアンスの分野としては、例えば、雇用・労働、人権、消費者、公正競争、企業統治・内部統制があげられます。特に、質的な重要性があることから、「生命・身体、健康、安全」に関する法規制が重視されます。

(2)具体的には、違法な残業や,セクハラ・パワハラ,各種業法違反、反社会的勢力との取引など数えきれないほどのリスクが存在します。

 それぞれの具体的な問題について、それぞれの対策法を学ぶ必要があります。違法な残業を許していると、残業代請求のリスクがあることはもちろん、そのようなことがブログ、ツイッターにあげられると会社の信用に傷がつきます(いわゆるレピュテーションリスク)。その結果、ブラック企業であると評判になった場合、採用が困難となりますし、今いる社員への悪影響も考えられます。

 また、例えば、最近話題になったキュレーションサイトの問題もあります。この問題については、不特定多数のライターによって書かれた記事内容の信憑性に問題があったこと、ほかのサイトをコピーして加筆するなど、著作権上も問題があったことなどから自主的な閉鎖をしたということがありました。この問題はかねてから当該会社の法務部も問題提起をしていたが、最終的には無視されたという経緯があります。この問題は、投資額が無駄になったり、レピュテーションリスクが生じる等非常に大きな問題となりました。これについては、医療という人の生命・身体に対する影響が懸念されたものと考えられています。

 この点についてはCLO(最高法務責任者, Chief Legal Officer)として、社外役員として弁護士が就任することなどが提案されています。

(3)コンプライアンス違反に対する制裁

 民事上の制裁としては、損害賠償や差止め、契約解除・取引停止等などがありえます。刑事上の制裁としては、刑罰、行政上の制裁としては、行政処分、行政罰の各対象となります。
 これらの制裁は、重畳的に課されることがあります。会社に損害が発生した場合には、会社法第423条に基づき、取締役は無過失でない限り会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
 さらに、重要なコンプライアンス違反が発生した場合、特にそれが「生命・身体、健康、安全」にかかわるような場合には、その制裁も大きくなり、場合によっては、(2)の例のように取引を停止するなどの事態にも発展します。

 いわゆる法務リスク、つまり法律違反の場合ですが、私自身が体験したものとして、ある会社の社長から「そんなことは起きないので、大丈夫でしょう」と言われたことがあります。それは,その通りかもしれませんが、一回で取引停止となるほどのリスクについてはせめて何が起きうるか知っておき、起こさないためにどうするか対策をすべきかと思います。

(4)コンプライアンス違反を惹起しないようにするために

 自社の業務に関連する法令、特に業法その他の規制関連法規を把握していることが出発点になります。「生命・身体、健康、安全」に関連する規制が特に重要です。兼務でもよいので、コンプライアンス担当を決め、関連法令に関する情報を集約するとともに、必要なチェックをさせるべきです。そして、誰でも必要な時にかかる情報へアクセスできるように、その担当者をアクセス・ポイントにしましょう。経営者や経営幹部は、グレーゾーンと思われる事態に直面したときには、無難な回答をできるように知識をつける、もしくは専門家の協力を仰ぐことができるようにしておくことが重要でしょう。

(5)そして、不幸にもコンプライアンス違反が発生した場合には、迅速かつ的確なリカバリーが大切です。

 例えば、セクハラ、パワハラであれば、被害者の気持ちに配慮したうえで、迅速な事実調査をすること、証拠を集めること、懲戒処分の検討などするべきことは山積みとなります。そのためには、まず何よりも、専門家と相談することをお勧めします。