Q:株主総会を開催していないとどうなるのでしょうか。

1  コンプライアンスや法務の重要性などについては良く言われるところですが、その重要性を具体的に思い浮かべることが出来る方はそう多くはないのではないでしょうか。

 そこで、最も身近でかつ形骸化しやすいのではないかと思われる株主総会について、具体的な法務リスクをひとつ述べたいと思います。
 株式会社は株主総会が本来的に全ての決定権を持っています。しかし、すべての株式会社で適法な株主総会が行われているのでしょうか。
 おそらく相当数が行われていないと思われます。

 良くある事例として、決算の際に税理士に必要だと言われ、議事録のみ作成したが、実態はないというものが考えられます。これについて「なんとなく法的リスクがありそう」とは思いますが、具体的なリスクとして何が考えられるか、以下で検討しましょう。

2 株主総会を開いていないと……

 それでは、株主総会をきちんと開いていないとどうなるのでしょうか? 
 株主総会を開かず議事録だけ作成して「株主総会があったことにする」例が少なくありませんが、これは株主総会決議不存在確認の訴えの対象となります。当然もともと実際はなかった決議ですから、これが裁判で立証されると、最初からその決議がなかったことが判決で確認されます。
 そうすると、決議が無かったことになるので、そのときに決めたことは全て無効です。例えば役員報酬を月額100万円にしたという決議があり、それに基づいて100万円が役員に支払われていたとしても、その100万円は何ら法的根拠無く役員に支払われた訳で、当然ながら、会社に返還しないといけません。

 その場合、自分に支払われた100万円を返せば良いという話で済むと感じるかもしれませんが、たとえば数年前の決議が不存在であることが確認された場合どうでしょうか。
 また、取締役を選任した株主総会決議が不存在となった場合は、その取締役の行った行為が全て無効となる可能性が生じます。つまり、社長が行った契約も全て無効となるというリスクが生じます。もちろんそうであっても契約が有効であるという理論もありますが、テーマが混乱するので割愛致します。

 いずれにせよ、企業活動が混乱し、本来のビジネスが成り立たなくなる可能性が大いにあります。
 しかも、この訴えについては提訴権者や提訴期間に制限がありませんので、例えば、ごく少数の株式しか持っていないような株主が、忘れた頃に訴えてくる可能性もあります。
 さらに株主総会決議不存在確認の訴えは対世効といって、第三者に判決の効力が及びます。
 株主総会をきちんとやらないと非常に大きなリスクを背負ってしまうことになるわけです。

 なお、実際にやっていないにしても、株主全員が総会の内容を承認しているのだから、不存在ではない、もしくは有効であるという反論がありそうです。
 しかし、東京地裁平成18年12月25日において、全員出席総会と評価されるなど特段の事情がある場合には、当該株主総会の決議は不存在とはいえないというにすぎない(最判昭和60年12月20日第二小法廷判決)という最高裁の判例をもってきて、総会が不存在であれば事後的な承認があっても不存在であることに変わりがないとされました。

3 対策

 それではどうすれば良いか。当然ながら、きちんと法に則った株主総会を開き、その適法な決議を議事録に残すことです。
 では、株主総会はどうやって開いたらよいのでしょうか?
 それは株式会社の形式によって異なりますが、原則として①株主全員への招集通知がなされ②その決議が法律に則ってなされていることが必要です。

 たとえば、招集通知をしたが、十分でなかったという事例でも株主総会が不存在とされた事例もあります。株主数3分の2、株式数において約4割について招集通知を欠く事例もあったところです(最判33・10・3)。
 このような問題は、事業承継の局面になって顕在化することがしばしばあります。そして、そのような局面になってから対策を取ったのでは苦しい戦いを強いられることになります。それぞれの会社形態でどのような手続が必要か、一度専門家に相談されるてはいかがでしょうか。