Q:反社会的勢力や悪質クレーマーの不当要求に応じてしまったとき,お金は戻ってこないのでしょうか。~民事事件~

(この文章は,平成30年6月20日の京都府暴力追放運動推進センターによる不当要求責任者講習の田中継貴弁護士の講演内容を再構成しています。)

暴力団に対する損害賠償請求(その2)

次に、もっとも直接的に被害の回復を図る方法です。すなわち、当たり前ですが、違法な行為を行ってきた、暴力団組員本人に恐喝という不法行為があったということで,損害賠償請求をする方法があります。
不法行為というのは、民法709条で定められているもので、契約などがなくても,他人から,権利を侵害する行為によって、損害を受けたときに、損害賠償請求ができるという条文です。交通事故なんかもこの条文で処理しています。
したがって,民法709条の不法行為という制度によって,みかじめ料を渡した暴力団組員本人に対して,損害賠償請求をすることが考えられます。

ところが,仮に,裁判でうまくいって,この組員個人に対して,損害賠償請求を認める判決を取ったとしても,それで被害の回収とはなりません。相手が,負けを認めて,払ってくれば別ですが,任意では,払ってこないことが考えられます。理由は,本当に金がない,あるいは,名義上自分の名義の金がない,あるいは,自分の名義の資産はあるが,簡単に見つけられる場所にはない,という理由が考えられます。

簡単に言うと,いわゆる皆さんが想像する裁判というのは,請求権があるかないかを判断するものなんです。たとえば,被告は原告に対し1000万円を支払え,とか,そういう判決がでます。しかし,1000万円支払えという判決が出たとしても,相手は払ってくるとは限らないんです。理由は先ほど話したとおりですが,金がない,あるいは,資産を隠してあるという理由です。判決が出た後,素直に払ってくれればいいのですが,そうとも限らないんです。日本の法律では,1000万円支払えという判決を取ったあとに,相手が払ってくれないときには,その判決を根拠にして,強制執行というのができます。
この強制執行も裁判所でやる手続なのですが,皆さんが想像する普通の裁判の手続とはまた,別の手続になります。

じゃあ,強制的に相手から金が取れるなら,いいんじゃないかと思われるかもしれませんが,強制執行といっても,資力がない人からは取れないのです。そして,基本的には,どこに金があるのか,資産があるのか,どこに勤めているのか,というのを,こちらで調べて,どこどこに,相手方名義の建物があるよとか,どこどこに,相手方名義の高級自動車があるよ,というのを見つけて,それで,裁判所に,それらを競売してくださいと,競売して,お金にかえて,払ってくださいという,そういう申立をすることになります。

ということで,恐喝行為,違法行為を行ってきた本人に対して損害賠償請求をして,裁判で勝訴することはもっとも直接的な解決なのですが,相手に金がなければ,被害は回復しないかもしれません。
なお,もちろん,勝訴判決を得るのも大変です。できるだけ証拠を残すようにしてください。何もなければ,自分で作ったメモでも,ないよりはいいので,5W1Hを意識して,不当要求を受ける都度作っていって下さい。

(その3につづく)