Q:「私は、自分が代表取締役を務める会社の株式を全て保有しているのですが、このまま死んだら、会社にとってどんな不都合があるのでしょうか。妻はすでに亡くなっていて、息子が3人います。長男は、会社の経営を手伝ってくれているので、いずれは、長男に会社を継がせたいと思っています。」

A:まず、相談者が亡くなられて、相続が開始すると、その時点から、相談者の財産は、相続人に承継することになります(民法896条)。相続人が複数人いる場合は、相続財産は、共有となります(民法898条)。

株式は、金銭的な価値のみならず、議決権などにより、会社経営についての権利も含んでいますので、相続人間で準共有(民法264条)されることになります。

現状で、相談者が亡くなれた場合、会社の株式は、相続財産となりますので、3人の息子さんの共有に属することとなります。相続分に応じて共有持分を有することになりますので、各自が、3分の1の準共有持分を有することとなります。

次に、この準共有された株式を権利行使する場合は、以下のような会社法上の制限があります。

①共有者は、当該株式についての権利を行使する者を1人と定め、株式会社に対し、その者の氏名または名称を通知すること(会社法106条本文)。

この場合、誰を権利行使者とするかは、「持分の価格に従い、過半数をもって決することができる」とするのが判例です(最判平成9年1月28日判時1599号139頁)。
相談者の場合は、3人の息子さんのうち、2人の意向によって、誰が株式の権利行使者とするかが決まるということになります。

②(①の指定及び通知を欠いたまま、権利行使された場合において、)株式会社が、当該株式の権利行使に同意すること(会社法106条但書)

この場合、判例では、①の指定及び通知を欠いた議決権の行使が、株式会社の同意により適法となるためには、民法の共有に関する規定に従ったものである必要があり、共有に属する株式についての議決権の行使は、特段の事情がない限り管理行為であるから、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるとされています(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。
したがって、相談者の場合は、長男のみで、議決権を行使して、会社が同意したとしても、適法とはならないことになります。

このように、いずれの場合であっても、相談者の株式の議決権を長男が行使するためには、二男か三男のいずれかの協力が不可欠なります。場合によっては、相談者が後継者と考えている長男が、二男と三男によって、会社から排除されてしまう危険性があります。
後継者と考えていた長男が、会社から排除されると、相談者の経営方針を引き継ぐこともできず、結果として、従業員を含む会社全体に大きな影響を与えることになってしまうという不都合が生じる可能性があります。
 したがって、相続をきっかけに、事業承継のトラブル発生を防止するために、事前の対策が必要といえます。
 
 後継者である長男に、株式を承継させる方法としては、①売買、②生前贈与、③遺言、④死因贈与といった方法が考えられます。各方法によって、メリット・デメリットがあり、会社や長男の経済事情、税金等の問題もありますので、どのような方法がより良いか、早期に専門家(弁護士や税理士など)に相談することをおすすめします。