セクハラ・パワハラ対策に関するQ&A

Q 昨今、セクハラ・パワハラに対する世間の意識は強まり、使用者は従業員のセクハラ・パワハラ被害に対して、徹底した予防措置を講じる必要が生じているように感じます。具体的には、どのような措置を講じる必要があるのでしょうか?

A セクハラ・パワハラへの対策

0 はじめに

セクハラ・パワハラ被害が生じると、使用者は、被害従業員から損害賠償請求をされる可能性があります。以下では、使用者がセクハラ・パワハラ被害を引き起こさないようにすることはもちろん、万が一にもそのような被害が生じてしまった場合に、損害賠償責任を追及されないような予防策について指摘しています。

1 セクハラ

⑴ 定義
他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的言動(人事院規則)
※職場とは、通常就業している場所に限られず、職務を遂行する場としての取引先、飲食店、出張先、車中や職務の延長としての宴会なども含まれます。

⑵ 使用者の義務
男女雇用機会均等法11条による使用者の義務:職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により労働者の就業環境を害することがないよう防止措置を講じること

⑶ 紛争になった場合の法的構成・主要な争点
① 法的構成
会社は、セクハラを行った者の使用者として、被害者従業員に対して、使用者責任(民法715条)を負います。
また、それとは別に、会社は、労働者に対し、良好な職場環境を整備すべき法的義務を負うとされる。そこで、会社は、被害者従業員に対して、職場環境配慮義務違反を理由として不法行為(民法709条)または債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負います。

② 主要な争点
セクハラに基づく上記請求がなされた場合、主に争点となるのは、(ア)セクハラの事実の有無、(イ)それが業務に関連して行われたか(業務関連性)、(ウ)会社に職場環境配慮義務違反があったかです。

(ア)については、使用者はセクハラについて把握していないことが多く、加害従業員の反論に依拠することになります。そのため、使用者としては、被害者従業員の供述の信用性を弾劾する主張に留まり、使用者が行う反論は(イ)(ウ)が中心となります。
なお、上記のセクハラの定義に該当するものが全て法的に違法というわけではありません。
(イ)については、業務に密接な関連性を有する行為は「事業の執行について」(民法715条1項)行われたものと認められます。そして、密接な関連性の有無については、行為の場所・時間、加害者の発言等の職務関連性、加害者と被害者の関係などを考慮して判断されます。特に、加害者が上司としての地位を利用してセクハラ行為を行ったことは関連性を基礎づける重要な事実になります。
(ウ)については、男女雇用機会均等法11条2項の指針に対応した対策を事業者が講じているかが斟酌されます。

⑷ 使用者の予防策
男女雇用機会均等法11条2項に基づいて、厚労省が示す「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(「セクハラ指針」という。)では、事業主が雇用管理上とるべき対策として、以下の9つの対策を指摘しています。これらは、絶対的な判断基準ではありませんが、裁判所は判断において斟酌しているようです。

① セクハラの内容及びセクハラがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
② セクハラの行為者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
③ 相談窓口をあらかじめ定めること
④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、セクハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること
⑤ 相談の申し出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認すること
⑥ 事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適正に行うこと
⑦ 再発防止に向けた措置を講ずること。事実関係が確認できなかった場合も同様の措置を講ずること
⑧ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること
⑨ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨定め、労働者に周知・啓発すること

2 パワハラ

⑴ 定義
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

⑵ 使用者の義務
セクハラの場合と異なり、法的に使用者に防止措置義務を定める規定はありません。

⑶ 紛争になった場合の争点
①法的構成
会社は、パワハラを行った者の使用者として、被害者従業員に対して、使用者責任(民法715条)を負います。
また、それとは別に、会社は、労働者に対し、良好な職場環境を整備すべき法的義務を負うとされます。そこで、会社は、被害者従業員に対して、職場環境配慮義務違反を理由として不法行為(民法709条)または債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負います。

②主要な争点
パワハラとされる行為が、適正な指導・教育の範囲内の行為か、それとも、社会通念上許容される限度を超える違法な行為かどうかです。

⑷ 使用者の予防策
セクハラの場合と異なり、男女雇用機会均等法11条1項のような義務が課されていません。しかし、参考となるのは、厚労省が運営するパワハラ情報総合サイト「あかるい職場応援団」に記載のある、以下の7つの項目です。

① トップのメッセージ
(組織のトップが、職場のパワハラは職場からなくすべきであることを明確に示す)

② ルールを決める
(就業規則に関係規定を設け、労使協定を締結する)

③ 社内アンケートなどで実態を把握する

④ 教育をする
(研修を実施する)

⑤ 社内での周知・啓蒙
(組織の方針や取組について周知・啓蒙を実施する)

⑥ 相談や解決の場を提供する
(企業内外に相談窓口を設置し、職場の対応責任者を決める)

⑦ 再発防止のための取組
(行為者に対する再発防止研修等を行う)

3 おわりに

上述のとおり、使用者にとって、セクハラ及びパワハラは、男女雇用機会均等法上の義務が化されているか否かで異なります。
しかし、使用者としては、セクハラ及びパワハラが生じないような職場環境を構築するように努力していたか、という観点で責任追及される可能性があり、上記のような具体的対策を講じていれば、責任追及されるリスクが回避できると考えられます。

以上